この記事では、近年の中国知財政策の特徴の2つ目、「知的財産権の保護強化」について解説します。
中国の知財政策の概要について解説した記事はこちらです。
知的財産権の保護強化「特許権利保護」
知的財産権の保護に関して、中国では権利行使の際の侵害立証の困難さ、訴訟期間の長期化及び高コストなどの問題を解決するために、各地に多数の知的財産権保護センター及び知的財産権快速権利行使センターを設立し、知的財産権保護の「ワンストップサービス」を提供しています。
なお、知的財産権快速権利行使センターは主に商標や意匠の案件を取り扱っています。
現在、中国では、「ゼロコスト権利行使」サービスを行う企業があります。この企業は外国出願人の商標や意匠について、知的財産権快速権利行使センターを通じて権利行使を行います。サービス料は請求しませんが、その代わり、賠償が成立した場合は賠償金から成功報酬を請求します。不成立の場合、費用はかかりません。2021年、この企業は「ゼロコスト権利行使」サービスで5万元の利益を得ました。このように、知的財産権保護センターや知的財産権快速権利行使センターが設立されることで、外国出願人に対する諸問題が解決されつつあります。
知的財産権の保護強化「知的財産関連訴訟の動向」
図1
次に、中国での知的財産関連訴訟について解説します。図1のグラフから分かりますように、中国における特許・商標の訴訟件数は年々増加しており、最高人民法院での受理・結審件数が大幅に増加しています。
図2
また、図2のグラフを見ると、戦略性新興産業はわずか13%にとどまり、依然として非戦略性新興産業(光学、機械、製造等の従来の産業)の訴訟案件が大半を占めています。
少し話は変わりますが、企業が侵害訴訟を受けた場合の対応も変わってきています。従来の場合、中国企業が特許侵害訴訟を起こされれば、和解金を支払うことが多かったのですが、今は、中国企業が侵害訴訟に直面すると、「私を訴えるなら、あなたの特許を無効にする」「他社の特許を買って、あなたの特許を無効にする」「反撃する」というスタンスになっています。
典型的な例として、最近、中国の格力電器(グリー)とAUXエアコンの特許訴訟があり、AUXは訴訟で劣勢に立った状態から、日本の東芝から特許を買い取り、その特許によってグリーに提訴し、数億元の損害賠償が下された事件がありました。この事件は、まだ上訴中(※)で最高裁の判断を待つことになっていますが、中国企業が今後、特許を購入することで自社の特許ポートフォリオを強化するようになっていくことが示されています。
※2022年1月時点
知的財産権の保護強化「中国裁判所重点目標及び知的財産関連訴訟の賠償額の傾向」
次に、中国の裁判所の最新動向を解説します。現在、中国の裁判所は、権利行使コストの削減、損害賠償額の増加、裁判期間の短縮、権利者の立証責任の軽減に焦点を当てています。そのため、現在中国での損害賠償額が益々高くなってきており、結審までの期間も短くなっていることがわかります。
2020年、最高人民法院は「カーボポール」技術秘密侵害事件で初の懲罰的賠償判決を下し、懲罰的賠償上限の5倍を適用して3,000万元を超える賠償金を認定しました。 また、「バニリン」技術秘密侵害事件では、侵害側は1.59億元の損害賠償が下され、営業秘密侵害案件としては中国での最高額となりました。
知的財産権の保護強化「懲罰的賠償制度と立証責任の完備」
中国では、故意に特許権を侵害した者に対して1~5倍の懲罰的賠償を課す賠償制度を導入しており、特許権侵害対策には有効な制度になります。
侵害立証制度も改善され、特許権侵害の場合、財務データや方法特許など、証拠の取得が困難な場合は、特許法第71条によって侵害者に証拠提出を求めることができるようになりました。
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今回は、中国知財分析について解説してきました。
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本記事の執筆者プロフィール
郝家歓氏 (Jiahuan Hao)
ScienBiziP Intellectual Property Agency Co., Ltd.
中国弁理士
国内外の特許出願を数千件対応するなど中国弁理士として知的財産業界で長年経験を積み、中国の政策動向にも明るい。
様々な産業・技術関連の特許情報調査、競合他社報分析、特許リスク調査、特許侵害分析、特許無効証拠調査の経験も有する。