この記事では、近年の中国の知財政策の特徴の1つ、「特許品質の向上」について解説します。
中国の知財政策の概要について解説した記事はこちらです。
特許品質の向上「高価値特許の基準」
特許の品質について、中国で初めて価値の高い特許に関する基準が設けられました。
基準としては、戦略的新興産業に属する特許出願、海外ファミリーを有する特許、10年以上維持された特許、担保融資金額の高い特許、そして国家科学技術賞や中国特許賞を受賞した特許などがあります。
また、戦略的新興産業についても定義されました。
その内容として、次世代情報技術、生物産業、省エネと環境保護、ハイエンド機器製造、新エネルギー自動車、デジタルクリエイティビティ、新材料、新エネルギー産業、関連サービス業などが挙げられています。
中国はこれらの戦略的新興産業に対して、特許の国際分類番号と整合させて、特許の国際分類番号で価値の高い産業かどうかを知ることができるようにしました。
中国は現在、これらの新興産業での競争力が弱いため、これらの分野での特許出願を促進しています。
外国出願人にとっては、今こそ、これらの産業をターゲットにして、早期に特許を取得するチャンスだと考えます。
特許品質の向上「高価値特許の平均審査期間の変化」
中国政府は現在、特許審査のさらなる迅速化に取り組んでいます。
中国の特許の平均審査期間は以前に比べて大幅に短縮され、特に高価値特許については、現在、13.4ヶ月まで短縮することが可能となりました。
また、中国は特許査定を迅速に出すためにいくつかの制度を設けています。
例として、優先審査では、出願した発明が特定の8つの産業に属する場合、または他者により実施/実施予定のもの、もしくは中国を第一国として出願したものであれば、優先審査を行うことができ、45日以内に1回目のOAが届き、1年以内に査定の結果が出ることになります。
また、特許を3〜6ヶ月程度で査定することを可能とする快速予備審査もありますが、現在は中国企業のみが対象です。
なお、電話によるインタビュー制度も見直されており、中国の特許審査官により大きな裁量権を与える特許審査制度となるよう調整されています。特許審査官と対話する機会を利用することで、特許審査の迅速化、特許査定の促進が図られています。
特許品質の向上「出願補助金の停止措置及び非正常出願に対する中国政府の対応」
中国では過去の大量の特許出願について反省がなされており、特許出願を促進するための補助金の廃止や、非正常出願への取締りの強化などの措置を取っています。
中国では、現在、特許出願段階での補助金が完全に撤廃され、将来的には登録段階の補助金も撤廃される予定です。
当該補助金に対応する金銭は、今後、特許の実施や活用の促進に活用される見込みです。
さらに、中国では非正常出願を違法とし、9つの主要な非正常出願の類型が定義されています。当該取締りの目的は主に、研究開発イノベーションを目的とせず、政策の数値目標や評価目標の達成などのためだけの特許出願を抑止することが目的です。
中国政府は、通常の研究開発、イノベーションを目的とした特許出願を促進しています。
特許品質の向上「特許出願動向及び登録率の変化」
図1
図1に示すように、中国の特許出願は総じて急上昇していますが、2019年、2020年には下落・減速が見られます。
特許出願補助金の撤廃や非正常出願の取締りとともに、中国企業が特許の質を重視するようになってきたことも一つの要因だと考えられます。これも中国における特許出願の蓄積が一定の規模に達した後の、量から質への転換という必然的な調整だと考えます。
図2
図2は特許登録率、却下率、放棄率の推移です。 特許登録率は徐々に低下する一方、却下率は徐々に上昇していいます。これは、中国が現在、特許の質をますます重視し、審査が厳しくなっていることを表しています。
次に、2020年に大きく低下した放棄率について見ていきます。 現在の政策により、出願人は特許出願に慎重となっていることから、特許出願を放棄することも少なくなっていると考えられます。
図3
最後に、図3の本国籍、外国籍の特許登録率の比較を見ていきます。中国と外国の出願人の特許登録率を比較すると、外国出願人の特許登録率は毎年70%を超えており、中国出願人の登録率より30%程度高く、影響もさほど見られません。これは、外国出願人の特許の技術が比較的進んでいるため、審査の厳格化による影響があまりないからだと考えられます。最終的な決め手となったのはやはりイノベーションの程度だと言えます。
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今回は、中国知財戦略について解説してきました。
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本記事の執筆者プロフィール
郝家歓氏 (Jiahuan Hao)
ScienBiziP Intellectual Property Agency Co., Ltd.
中国弁理士
国内外の特許出願を数千件対応するなど中国弁理士として知的財産業界で長年経験を積み、中国の政策動向にも明るい。
様々な産業・技術関連の特許情報調査、競合他社報分析、特許リスク調査、特許侵害分析、特許無効証拠調査の経験も有する。