この記事では、中国の知財政策及び「知的財産権強国建設綱要」について解説した上で、中国の新政策が外国企業に与える影響と中国での知財戦略についても合わせて解説します。
「知的財産権強国建設綱要」の元になった中国全人代について解説した記事はこちらです。
中国の知財政策及び「知的財産権強国建設綱要」
この項目では、中国の知財政策及び2021年9月に公表された「知的財産権強国建設綱要」について解説します。
中国における知財政策の変化
2021年3月、中国は第13回全国人民代表大会を開催し、第14次5カ年計画と2035年までの長期目標が発表され、この会議の指示に基づき、2021年9月に現行の「知的財産権強国建設綱要」が発表されました。
今回の「知的財産権強国建設綱要」の最も重要なキーワードの一つは「知的財産強国」です。
2015年に初めて登場し、その後数年にわたる政策の変更、国際環境の変化、中国のトップリーダーによる数々の講演を経て、最終的に今回の「知的財産権強国建設綱要」の発表に至りました。
「知的財産権強国建設綱要」及び「【十四五】国家知的財産権保護運用計画」
中国の現在の知的財産環境では、解決されていない根本的な問題がいくつかあります。
具体的には、主要なコア技術分野における質の高い特許の欠如、法的保護が不十分、特許侵害が容易で侵害が頻発、権利行使が困難、知的財産の活用が非効率で実施の効果が不十分であるという事が挙げられます。
そのため、今回の「知的財産権強国建設綱要」では、具体的な政策目標が定められています。
具体的には、人口1万人当たりの高価値発明特許件数は2025年までに12件に達すること、海外特許の取得件数は2025年までに9万件に達すること、知的財産権担保融資の登録額は2025年までに3,200億元に達すること、知的財産訴訟事件の解決率は85%に達すること、などが定められています。
これらの具体的な定量目標に加えて、知的財産の実施と運用の促進、知的財産権保護の強化、質の高い特許の創出、知的財産関連サービスの向上、知的財産に関する国際協力の強化などの成果目標が挙げられています。
「知的財産権強国建設綱要」個別政策項目の概要と主なポイント
「知的財産権強国建設綱要」で述べられている具体的な内容は、大きく分けて知的財産法の整備、知的財産権の保護、知的財産の管理、知的財産の創出、知的財産の活用、知的財産のグローバル・ガバナンスへの参加の6つです。
「知的財産法の整備」では、ビッグデータ、人工知能、遺伝子技術などの新しい産業技術に関する知的財産権の法整備を中心に、包括的で厳格な法制度の構築の必要性に言及しています。
「知的財産権の保護」では、知的財産権の保護強化や補償金の増額について言及しています。
「知的財産の管理」では、特許審査の質とスピードを向上させることが言及されています。
「知的財産の創出」では、特許の質と価値を重視すること、中国企業の知的財産の競争力を高めること、研究機関や大学における知的財産や研究開発への投資を拡大することについて言及しています。
「知的財産の活用」では、知的財産運営サービスプラットフォームを構築し、知的財産権の金融、質権、融資、取引を総合的に発展させると言及されています。
最後に、「知的財産のグローバル・ガバナンスへの参加」において、中国は知的財産分野の対外開放を拡大し、知的財産に関するいくつかの国際規則や標準を整備し、中国を知的財産訴訟の選択優先地にすることについて言及しています。
今回の「知的財産権強国建設綱要」の内容から、中国の知的財産をめぐる環境は次のように変化すると考えられます。
- 法改正の頻度が高くなり、新産業技術に関する知的財産権の法律が制定される。
- 中国における知的財産権保護がより強く、より厳しくなり、訴訟の手続きがより簡単で速くなる。
- 中国での特許審査がより速く、より厳しくなる。
- 中国の財政支出が科学研究に対して投入され、中国企業の知的財産競争力が次第に強くなる。
- 中国で知的財産の実施、運用及び各種知的財産権金融製品が全面的に展開される。
最後に、中国の知的財産は次第に国際規則・標準と統合して、中国での知的財産訴訟がますます多くなると推測できます。
近年の中国の知財政策の特徴
中国は、知的財産の大国から知的財産の強国への転換を目指しており、その実現に向けて、第一に特許品質の向上、第二に知的財産権の保護強化、第三に知的財産の実施と運用を促進し、第四に国際的な知的財産システムへの統合という四つの分野に取り組んでいます。
第一の特許品質の向上について解説した記事はこちらです。
第二の知的財産権の保護強化について解説した記事はこちらです。
第三の知的財産権の実施・運用の促進について解説した記事はこちらです。
第四の国際的な知的財産システムへの統合について解説した記事はこちらです。
中国の新政策が外国企業に与える影響と中国での知財戦略
現在の中国の知財政策に対して、外国企業はその変化にどのように知財戦略を進めていけばよいのか。
中国の知的財産環境の変化は、主に次のような点に反映されています。
- 知的財産権の保護が強化され、知的財産訴訟の選択優先地としてますます好まれるようになり、中国企業は今後、訴訟に対して受身ではなく、積極的に対応するようになると考えます。また、意匠や商標などの権利行使コストが非常に低くなります。
- 中国の政策では高価値特許の創出に注力し、政府は企業の特許ポートフォリオの最適化を促進し、戦略的新分野の研究開発により多くの投資がなされるよう促進すると考えます。そうすることで、中国は重要な分野でコア技術や高価値特許を多く保有することになります。
- 中国は知的財産を資産として積極的に運用し、リターンを重視するようになります。
外国企業は、中国の競合他社の特許ポートフォリオ戦略に注目すべきと考えます。
特に特許取引と訴訟の動向に注目し、優位性を確保するために、重要技術分野における高品質の有利な特許を出願し続けて、中国で積極的に権利行使し、特許活用を行うべきと考えます。
中国の知財戦略は弊社にお任せ下さい
今回は、中国の知財戦略について解説してきました。
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本記事の執筆者プロフィール
郝家歓氏 (Jiahuan Hao)
ScienBiziP Intellectual Property Agency Co., Ltd.
中国弁理士
国内外の特許出願を数千件対応するなど中国弁理士として知的財産業界で長年経験を積み、中国の政策動向にも明るい。
様々な産業・技術関連の特許情報調査、競合他社報分析、特許リスク調査、特許侵害分析、特許無効証拠調査の経験も有する。