本稿では、中国における政策と特許・実用新案との関係性について考察する。
まずは特許・実用新案の出願推移に注目する。
<図1:各国特許・実用新案出願件数推測推移>
図1は2010~2018年の各国特許・実用新案の出願件数の推移を示したものであるが、中国の出願件数は米国、日本、韓国、欧州と比較して、急激に増加していることが分かる。2010年には100万件以下であった出願件数は、2014年までにほぼ倍増し、2018年にはおよそ300万件にも達している。
この急激な出願件数の増加の背景には、中国政府の政策が与える影響が考えられる。その中でも、まずは2010年に制定された「全国専利事業発展戦略」に着目する。中国では「国家知的財産戦略綱要」に基づき、2010年11月に「全国専利事業発展戦略」が公表された。本目的は、コア技術に関する知的財産権を有し高付加価値製品を生産する企業を、助成・奨励などの政策を通じて奨励することで、企業の発展モデルの転換を促進することにある。
それに従うように、2010年代から各省政府は特許・実用新案を出願する企業に対して補助金を支給していた。企業は自社製品や技術を発展させることで、各省政府から補助金が支給されるとあって、積極的に特許及び実用新案の出願に取り組むのは自然なことであり、「全国専利事業発展戦略」から派生した当該補助金政策が、中国の出願件数の増加の要因の一つであることは疑いようがない。
2016年には中国政府により第13次5ヵ年計画(対象は2016-2020年)が発表されたが、当計画ではイノベーションによって産業を発展させるために知的財産権強国の建設を目指してており、知的財産保護の強化が明記されている。
さらに、本計画では、特許出願などに関する以下の具体的な指標が記載されている(表1)が、2020年の指標は2015年と比べて全体的に2倍程度増加することを目標としていることが読み取れる。中国はこうした知的財産権の件数を増やすことで、国家競争力を強化し、更に国際的に知的財産分野で優位を占める企業を増加させようとしている。
<表1:第13次五ヵ年計画に揚げられた知財指標>
出所:http://gov.cn/zhengce/content/2017-01/13/content_5159483.htm
中国はこうした知的財産権に対する特許保有件数や出願件数を増やすことで、国家競争力を強化し、更に国際的に知的財産分野で優位を占める企業を沢山増加させようとしている。このような中国の数年間続けている計画の影響もあり、中国の知的財産業に対する第当該知財指標も出願件数の増加に影響を与えたことは容易に推測できる。
第一章では以上のように、中国の知的財産関連政策及び13次5ヵ年計画に揚げられた知財指標と、特許及び実用新案の出願件数との関連性について述べた。