特許権力ゲーム 第一章

2020/06/04


特許権力ゲーム:60年間の悩みと解決案

「世界知的所有権の日」に考える:ビッグデータとAIを通じてデータ非対称のゼロサムゲームを反転させる方法とは。

代表取締役社長  周 延 鵬 (Y.P. Jou)    | ScienBiziP Japan 株式会社

2000年に、世界知財機構(WIPO)は中国とアルジェリアの提案を基に、2001年から毎年の426日を「世界知的所有権の日」にすることを決定した。その目的は、世界で、知識の尊重、科学の提唱、知的所有権の保護などの意識を樹立し、知的イノベーションの激励と知的所有権法的環境の保護にある。

「世界知的所有権の日」は今年で20週年を迎える。今の全世界特許知財の現状を見てみよう。知財関連法律において、改正は引き続き必要なものの、基本的には整備されている。そのため、将来の市場の動きを考える場合、法律自体を反省する切迫さはない。むしろ、知財という戦場において、知財後発国は欧米企業の戦略を理解すると同時に、どのように特許を用いて市場で戦い、また、次から次へと貿易戦争とか技術戦争を広げるかを優先的に考える必要がある。即ち、貿易戦争、技術戦争のど真ん中に巻き込まれた国と企業が、より激しい市場競争に対し、相変わらず知的財産問題の核心と突破口を知らなかった場合、年々無限に非難され、報復され、税関に拒まれ、賠償を求められ、ロイヤルティを請求されることになる。ひいては、市場から追い出され、天下を争う機会を失う可能性もある。

特許の歴史は長いが、60年間の貿易戦争は何を教えているのか

   1474年にヴェネツィアが特許法を公布してから、546年が過ぎた。その間、世界のほとんどの国は特許法を制定して実施しているが、各国においてはほかの法律と同様に慣例に従うだけで、特許という旗を振りながら、貿易戦争を起こし、ライバル国家及びそのライバル企業と戦おうとすることはめったになかった。そのため、本格的に議論する必要があり、かつ参考にすべきなのは、1960年代からの米国である。米国は特許を武器として、特許における実力を極大化し、欧州及び日本を相手に、煙のない貿易戦争を起こしていた。その後、1980年代にも、台湾・韓国・香港を相手に、さらに2010年以降は中国を相手に特許戦争を起こしている。

   60年が過ぎた今になって、歴史は新しい章に入るべきである。なぜ、アジアの国及び企業は、いまだに米国との特許戦争に翻弄されているのか。なぜ、今まで膨大なリソースを投入し、自国及び米国において大量に特許を出願したのにも関わらず、まるでざるで水をすくうように、役に立つことがめったにないのか。なぜ、膨大な様々な国の特許資産を有しているのにも関わらず、他社に米国特許を基に、米国で提訴され、警告される等の紛争に巻き込まれ、ひいては米国特許のATMになってしまうのか。このように、アジアの国または企業は、いまだに本当のターニングポイントを見つけていない。

特許法律は基本的な最低ラインであり、分野、実務と経験を統合してパワーアップする必要がある。

   筆者は35年間、米国、欧州、中国、日本及び台湾の製造業界、学術研究界、弁護士業界およびデータサイエンス業界において、データ通信・光電・医薬・医療材料・半導体・インターネット・電気自動車・自動運転車両・ドローン・AI・無線通信/無線送電/オーディオ/ビデオの標準技術などの産業に係る各国の特許における検索、特許網構築、出願、権利維持、訴訟、ライセンス、取引、抵当、ポートフォリオ構築などの業務、及び関連特許検索ツールと特許管理システムなどを経験してきた。また、Foxconnから退職後の16年間にわたって、特許運用問題の核心を究明するために研究を重ねてきた。筆者は、新しいソリューションを創造し、60年間の特許権力ゲームにおける行き詰まりを変えようとしている。つまり、ビッグデータとAIを通じて非対称のゼロサムゲームを反転させることである。

アジア諸国における特許問題の核心

   まず、アジア諸国が直面している特許問題の核心は、少なくとも以下の何点かにまとめられる。

1.欧米の特許エコシステム及びその組織構成、担当者の専門性、作業分類、プロセス、予算などの運用関係を把握しておらず、現在の欧米の特許エコシステムの実質的な欠点を見つけ出し、役に立った対策を提案することができない。真髄を学べず、形だけまねしたため、実質的な変革を実現することができていない。

2.特許ライフサイクルの後半における訴訟、ライセンス、売買、抵当などの経験が不足しており、特許ポートフォリオ・マネジメントに必要なスキル、経験、ないし方法、ツールも不足しているため、特許へリソースを投入して得た成果物は出願件数に留まっており、特許活用による市場・収益拡大、技術向上などに効果を得られていない。

3.多くの企業と学術研究界は長きに渡って、自国の特許出願をスタートとした上で、母国語の明細書を英文化して米国で出願を行うようにしている。つまり、最初から米国の特許ビジネスを起点とする実務運営及び将来のマネタイゼーションを目標として考えていない。そのため、多くの産業、学術界の特許出願業務は、依然として単なる出願業務に留まっており、ビジネス戦略及びマネタイゼーションの要素を出願業務の中に取り入れていない。その結果、特許の品質が低くなってしまう。

4.多くのアジア企業は基礎学問または応用科学への研究(Research)を行わず、追いかけるものとして、製品開発(Product development)とエンジニアリング(Engineering)だけを行っており、先端技術が少ないため、ほとんどの特許の価値が低くなってしまう。

5.台湾と中国では、過去に日本が40数年間発展させてきた特許検索とパテントマップ作業に制約され、そこから脱出することができず、その結果、特許分析(Analytics)を通じて、特許データに対する様々な次元から利用することができていない。さらに、これらデータに新しい意味合いと新しい用途を与えることもできていない

6.多くの企業が、ビックデータ、アルゴリズム、AIなどの新しい技術を活用し、新しいソリューションを考案することができていない。その一方、新しい特許ソリューションはすでに存在している。例えば、Patentcloudでは自社経営に影響する重要な特許権者及び発明者を異なる次元から即時に観察・分析することができ、膨大なデータの中から、自社の技術と関係するすべての特許の実質的な内容を抽出することができる。また、その中から低品質・低価値の特許を洗い出すこともできる。これら低品質・低価格の特許は、企業が有効的な研究開発活動を行い、高品質・高価値の特許ポートフォリオを生み出す妨げになると思われる。

欧米日は実際、優れた特許戦略を実施していない。

   上述の問題のほか、多くのアジアの国・企業は、実際ほとんどの欧米日企業、大学及び研究機関の特許運用にはいまだに実質的な欠陥があることを見抜けていない。例えば、欧米日企業の特許ポートフォリオにおける原則とメカニズムを見ると、ライフサイクル全体にわたるアジャイルな特許資産管理及びその品質・価値の評価指標には相当足りていない部分があるが、いまだに効果的な解決策がなされていない。欧米日企業は、新しい技術の研究と特許への大きな投資により、上位10%未満の高品質・高価値の特許を産出し、その10%未満の特許の中からさらに数件の「牙をむく特許」を抽出して特許侵害訴訟を行っている。また、欧米日企業は 米国連邦裁判所の訴訟または国際貿易委員会の337条に基づく調査を絶えず行うことにより、ライセンスの受け入れ、または市場からの撤退まで、相手を追い込む。それにより多数を占める他の低品質・低価格の特許もあたかも高品質・高価値に見えるという現象が起きている。しかし、アジアの企業は、通常、提訴されると、高額の訴訟費用と綿密な法的手続きに畏怖し、おびえた鳥のように、戦いもせずにお手上げし、金銭を支払うことで案件の終結を狙う。このような状況では真の解決にはならず、新しい解決策を生み出すことができない。

第二章に続く